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私とバルラッハ

 
 私とエルンスト・バルラッハの出会いは2006年初頭、電車の中に掲示されていたポスターの『歌う男』でした。それは日本初となる、本格的なバルラッハ回顧展の予告ポスターでした。
 
 その頃、ワイマール時代のサイレント映画を通して“ドイツ的なるもの”にぐいぐい引き寄せられつつあった私は、『歌う男』を見た時、なぜか瞬時に「絶対に行く」と決めていました。何かが響いたのです。そして翌日、同じ回顧展の別のポスター『苦行者』を見て、今度ははっきりと感じました、「これだ」と。
 
 回顧展の会場に入って数分もたたないうちに、予想は確信となりました。これこそ自分の求めていたもの、ずっと探してきた“本物”にやっと出会えたのだと。ただ向かい合うだけで、私にあふれんばかりのメッセージを繰り出してくるこの彫刻たちを、そしてこれを造ったバルラッハという芸術家をもっと知りたい。私のバルラッハ探訪の始まりでした。
 
 回顧展が開かれれば、どんなに日本で無名な芸術家でも、評伝本の一冊くらい出るものです。なのにバルラッハに関しては皆無でした。仕方なくインターネットを頼りに情報を集める中で、幸いにも長年バルラッハを追い続けて来られた上野弘道さんの著作(『木彫りの詩人エルンスト・バルラッハ』『エルンスト・バルラッハ 忘れられた表現主義の彫刻家』後に『バルラッハの旅』)と出会い、美術系の古書店で買い占めてむさぼり読みました。そして、上野さんの情熱に後押しされるように、ギュストロウを訪れ、ドイツ語を学習し、辞書を片手に本と格闘する、そんな10年がたちました。
 
 バルラッハの彫刻と向き合う時、芸術を解する目などない素人の私にできるのは、ただ二つだけです。頭と心を空っぽにして前に佇むこと、そして聴くこと。それでよいと思わせてくれる、バルラッハの言葉があります。
「存在の本質は暗い(見分けられない)。それは、本質を認識しようとする私たちが、なまじ目をもっていて、それを使うからなのです。いっさいの認識を無用なものとする<観ること>があってくれさえすればよいのです。」(『人間を彫る人生(宮下啓三著)』より、バルラッハの手紙から)
 
 
 
 

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コメント

Ms.まあしゅ様
バルラッハのことをたくさん教えてくださり、どうもありがとうございます。

先日、チューリッヒ美術館展に行き、「難民」に魂を奪われました。
そこから動けず、下手なのに恥ずかしいと思いながらちょっとスケッチして、はがきを買い…。
帰りに付属図書館に寄ったら’06年の図録があることがわかり、お金もないけど、これは絶対手に入れる!!と古書店から取り寄せました。

海外には一生行かないなと思っていましたが、一生に1度で良いからドイツに行きたいと切望しています。バルラッハの作品に会うには、行くしかないですよね。


まあしゅさん、素晴らしいですね!
06年の展覧会に巡り合えたのは、バルラッハとご縁があったのですね。
そして、そのあとのドイツ巡礼?… 
なかなか行けないと思うのに、たくさんの作品と直に出会われて…。

今日、初めてブログを見せて頂いたので、これから少しづつ、何度もバルラッハの項目を拝見したいと思っています。

どうぞ、ご自愛くださいませ。

ありがとうございました。

投稿: じゅにあ | 2014年11月 6日 (木) 22時21分

じゅにあ様
 
 コメントありがとうございます。それと「チューリヒ美術館展」の情報も。日本ではなかなか見られないバルラッハなので、嬉しいニュースでした。来年神戸に来た時は是非行きたいと思います。
 『難民』素晴らしいですね。バルラッハの‘動’の彫刻の代表作の一つだと思います。私はハンブルクの「エルンスト・バルラッハ・ハウス」で見ました。
 日本の美術館でバルラッハの彫刻を置いているのは、愛知県美術館(『母なる大地』『忘我』)と静岡県立美術館(『読書する修道僧』)です。機会ありましたら、足を運んでみてはいかがでしょうか。特に、静岡県立美術館のブロンズ(‘静’の代表作の一つです)は必見です。おみやげにシールも買えますよ♪
 バルラッハの名前に関心を示して下さる方が少ないので、こういうコメントには感激します。本当にありがとうございました。

まあしゅ

投稿: まあしゅ | 2014年11月 7日 (金) 16時09分

Ms.まあしゅ様
お返事を頂けるなんて!!
ありがとうございました。とても感激しました!!

普段、なかなかPCを開けず、早速にご連絡頂いていたのに、本当に失礼いたしました。

日本にもバルラッハの作品があるなんて、思いがけなくて…ドイツに行くよりずっとずっと気が楽です。すぐには難しいですが、何とか伺ってみたいと思います。


『難民』本当に「動」ですね。
バルラッハのいくつかの作品の、あの躍動感といったら…。
そして「静」の作品の中にも、その躍動感というか、いのちというかを、感じてしまいます、と言いながら、実物を見たわけでもないのに、エラソーですが…。

『難民』を見たとき、足にとても特徴が有るなぁと、印象深く思いました。
’06年の図録を見ると、浮世絵とか歌舞伎などに影響を受けたと…。なんだかとても納得しました。

あっ!
わからないのに、いろいろなことを言ってしまってお恥ずかしいです。
まあしゅさんのバルラッハの記事、もっと拝見して勉強します。

「チューリッヒ美術館展」、お楽しみなことでしょう。
『難民』に再会なさるのですね。
素晴らしいなぁ…

とはいえ、ハンブルクでご覧になったのですよね。ご覧になった『難民』と今回のは違う作品でしょうか?
無知で、本当に恥ずかしいのですが、たくさんんの『難民』を作成なさったのでしょうか。

『空飛ぶ天使』も複数 作製されたようですし。

というようなことを、ご紹介いただいたご本なども拝見して、だんだんと学習して行きたいです。


お返事いただいたことになんだか興奮して、取り留めもなく長文になり、ご迷惑でしたらすみません。

神戸の方も、だんだん寒くなっているのでしょうか。
東京は、日中は暖かくても朝晩冷えるようになりました。

風邪も流行っている様子…
どうぞご自愛くださいませ。

どうもありがとうございました。  じゅにあ


投稿: じゅにあ | 2014年11月13日 (木) 19時09分

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